累風庵閑日録

本と日常の徒然

『大聖堂の殺人』 M・ギルバート 長崎出版

●『大聖堂の殺人』 M・ギルバート 長崎出版 読了。

 私の好み直撃で、面白い面白い。捜査陣が関係者に対する尋問を積み重ね、その結果を基にディスカッションを繰り返す。そこでは関係者の分刻みの行動が検討される。大聖堂周辺の見取り図が何度か挿入され、その都度整理された情報が書き込まれる。

 微妙で繊細な犯人の工作が、地味作りで好ましい。数多くの伏線が、ちょっとした発言や些細な描写として盛り込まれている点、満足度が高い。中でも特にある人物のある一言が、実は犯行計画が第三者の目に触れた瞬間だったと判明する展開はぐっとくる。

 人間の自然な動きとは、という着眼点に基づく推理も悪くない。必ずしもそうとは限らないぞ、とは思うけれども。また、作者が設けた意外性の演出はかなり意地悪だと思う。

 面白く読みはしたけれども、あまりに多くの登場人物達のあまりに事細かな発言や行動が書き込まれており、ちょっとばかし流す感じでページをめくってしまった。これがたとえば十年前や二十年前なら、それぞれの情報をじっくり頭に入れながら読み進めただろうものを。今はもうそんな根気も集中力もない。老人が加齢に伴い運転免許を返上するように、ごりごりのミステリを読める限界年齢があるのかもしれない。