累風庵閑日録

本と日常の徒然

『犬のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫

●『犬のミステリー』 鮎川哲也編 河出文庫 読了。

 題名の通り、犬テーマのミステリアンソロジーである。気に入った作品は以下のようなところ。佐野洋「放火した犬」は、サスペンスも展開の起伏も程よく適量で、二時間ドラマの原作になりそう。多岐川恭「蝋燭を持つ犬」は予想通りの結末、と思っていたら予想外の方向にカッ飛んでいった快作。椿みち子「赤い犬」は、犬の失踪に伴う奥様の態度が不気味で、いい発端。仁木悦子「虹色の犬」は、事件にまつわる幼少期の奇妙な記憶、というシチュエーションが私好み。

 個人的ベストは竹村直伸「タロの死」で、再読だがそれでも上々の読み応え。見知らぬ子供に子犬を与える婦人という奇妙な謎が、錯綜した意外な着地点にたどり着く。