「誘拐」
犯人の計画に感心した。これはいい。読んでいる途中は、(伏字)要素がちと興醒めであった。だが、その部分にもきちんと神経が行き届いていることが分かって、なおのこと関心する。私好みの、警察の地道な捜査も描かれている。終盤まで引っ張られる犯罪計画の謎も興味深い。百谷泉一郎・明子ペアが事件に取り組み始めてからの、解決に向けた段取りも秀逸なアイデアである。しかもキャラクター設定と結びついているのが上々。これは読んでよかった。
「我が一高時代の犯罪」
時計塔からの失踪は、シンプルな真相がお見事。読んでいるうちにふっと思い浮かんでもおかしくない自然なネタに脱帽である。全体的には、(伏字)を扱っていておぞましい。それにしても、追憶を無条件に美しいものとして扱っているのが、なんと無邪気なことか。私自身の学生時代を顧みると、幼さ故の愚かさと考えの浅さ、薄っぺらな言動に身もだえしそうになる。
●書店に寄って本を買う。
『死の10パーセント』 F・ブラウン 創元推理文庫
『アリス連続殺人』 G・マルティネス 扶桑社ミステリー
『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会