短めの長編二編と評論・随筆という構成である。
「呪の仮面」
犯罪組織との闘争を描くスリラー。どこかで読んだようなエピソードの連続で、こいつはちと厳しい。
「丹那殺人事件」
一歩一歩着実に捜査を進める様子を描く地味な作風で、私の好みである。こっちはじっくりと面白く読めた。それどころか、感心した。関係者が事件についてディスカッションするのも楽しい。細部にまで神経が行き渡った結末も、満足できる。様々なピースが納まるべき所に納まると、気持ちいい。
意外性のキモは(伏字)にあるが、その演出も構成がしっかりしていてこそ、である。捜査が進展する大きなきっかけとして偶然を持ち込んでいるのがちと弱いけれども、何しろ昭和十年の作品である、このくらいどうということはない。
最後に、ストーリーとは直接関係ない余談だが、戸倉と高須の温泉旅行が羨ましい。温泉宿にゆっくり逗留して退屈してみたいものだが、そんな旅が実現する日が来るだろうか。