累風庵閑日録

本と日常の徒然

『100分間で楽しむ名作小説 黒猫亭事件』 横溝正史 角川文庫

●『100分間で楽しむ名作小説 黒猫亭事件』 横溝正史 角川文庫 読了。

 昨日から読み始めた翻訳ミステリ中編集が、面白いんだけどもあまりに濃くて疲れた。二編収録されているうちの一編だけ読んで中断。口直しに横溝正史をさくっと読む。この時期の正史の、本格ミステリを書いてやろうという意気込みがひしひしと伝わってきて、凄みすら感じる秀作。金田一耕助は、いくつもの仮説を組み立て検証を重ねてゆく。こんなに丁寧に推理の過程を喋るのは珍しい。これも正史の意気込みの表れであろう。

 第七章で金田一耕助が警察に出向いた途端、物語の雰囲気ががらりと変わる。彼が警察の面々に向かって「油紙に火がついたように」ベラベラとまくし立てる様子は、この男の軽味とうさん臭さとを存分に表す名場面である。

 ひとつ気付いた点。角川文庫旧版の「てんかん」が、このバージョンでは「持病」に変えられている。底本だという金田一耕助事件ファイルからすでに変更されているのだろうか。

●行方不明でずっと気になっていた「翻訳道楽」の「#37」以降のうち、「#52」までが思いがけないところから見つかった。それはいいのだが、依然として「#53」から「#62」までが行方不明である。どこにあるのだろう。