主人公は弁護士のロバート・ブレーヤー。代り映えのしない、同じことを繰り返す日々にぬるま湯のような幸福を感じている。そんな彼のもとに奇妙な依頼が飛び込んできた。若い娘ベティー・ケーンが、フランチャイズ家の人間に誘拐、監禁され虐待を受けたと主張している。ところがフランチャイズ家の人達は、事実無根な告発であるという。ロバートは、フランチャイズ家のマリオンから法的対応を依頼されたのであった。
ロバートが見るところ、嘘つきはベティーの方である。それならそれで、彼女の目的はなんなのか。当事者同士にはそれまで何の接点もなかったので、復讐や金銭欲という動機はピンとこない。ベティーはほとんど読者の前に現れないので、裏面の悪意がほの見えたり、不気味さが漂ってきたり、というようなサスペンスもない。どうも茫洋とした物語である。
新聞報道でベティーの主張を鵜呑みにした地域住民達が、フランチャイズ家に対して嫌がらせを始めるのがひとつの読みどころ。無関係で無責任な人間が安全な場所にいたまま、正義の皮をかぶった攻撃性を発揮するってえのは、古今東西どこにでもある現象なのだろう。善人のおぞましさがよく描かれている。
事件の結末はともかく物語の結末は、しみじみとしてちょっといい感じ。