累風庵閑日録

本と日常の徒然

『黒い羊の毛をきれ』 D・ドッジ 東京創元社

●『黒い羊の毛をきれ』 D・ドッジ 東京創元社 読了。

 世界推理小説全集の第四十七巻である。主人公は計理士のジェームズ・ホイットニー。富豪の羊毛業者からの依頼で、会社を手伝わせている息子が会社の金を不正に流用している疑惑について調査を始めた。息子はどうやら、いかさまポーカーで詐欺師グループのカモにされているらしい。

 依頼の内容を聞いて、ホイットニーは一度は断った。そんなのは私立探偵のやることで、自分にはできない。ところが説得されていざ調査を始めると、探偵顔負けの行動力を発揮する。嘘をつき、策を弄して情報を知る。裏から手を回してホテルのマスターキーを手に入れ、関係者の部屋に忍び込む。最初の否定はなんだったのか。なぜ計理士がそこまでやるのか。この点が、人物造形としてどうもしっくりこなかった。

 ホイットニーが真相に至る筋道は、かなりずっこける。ミステリの面白さを期待して読んでいるのに、これじゃあしょうがない。まるでB級サスペンス映画のようだ。ところが、だ。話はそれで終わらない。作者はいくつかの意外性を潜ませ、それなりの伏線とロジックを盛り込み、しかもそのロジックがある人物の造形と結びついている。読み終えてみると、用意された意外性がきちんと効果を発揮するように、物語の流れが作られていたことが分かる。なかなかのものである。結論として、満足度は高い。

●本を買う。
『鍵かけた扉のかげで』 A・M・ポート 仙仁堂