累風庵閑日録

本と日常の徒然

『聖女が死んだ』 C・エアード ハヤカワ文庫

●『聖女が死んだ』 C・エアード ハヤカワ文庫 読了。

 聖者の次は聖女を読む。スローン警部シリーズの邦訳三冊目だが、作品としては第一作。せっかく魅力的な伏線を張りながら、どうもそれを上手く活用できていないようだ。また、スローン警部が手掛かりから推理を進める過程も、少々心細い。とある重大な人間関係が、あれっと思うほど簡単に処理されてしまっている。

 とまあ、いくつも引っかかる点はあるのだが、つまらないかというととんでもない。大変に面白かった。理由は分かっている。一冊の本をどれだけ楽しめるかは、内容だけで決まるものではない。その時の気分や体調、忙しさ、さらには直近でどういう本を読んだのかも、影響する。最近読んだのがエドガー・ウォーレスにチャータリスのセイントなんてところだったので、警官が主人公のストレートな犯人捜しミステリは、もうその骨格だけで新鮮である。読了後の満足感はともかく、地道な捜査で次第に状況が明らかになってゆく展開は、読んでいる間はそりゃあもう面白い。