累風庵閑日録

本と日常の徒然

『学寮祭の夜』 D・セイヤーズ 創元推理文庫

●『学寮祭の夜』 D・セイヤーズ 創元推理文庫 読了。

 いやはや、こいつは長い。たとえ長くても内容がエキサイティングなら、ページをめくる手も止まらないのだが、なにしろ事件はまるで地味だし、主人公の探偵はなかなか活躍を始めないし、抽象的な議論が何度も繰り返されるしで、実にどうも、七百ページは長かった。

 だが、実際読んでいるとそれなりに面白いのだ。その面白さの所以は、人物造形にある。様々な人間達が、悩み、怒り、衝突し、欠点をさらけ出し、愚かな間違いをし、反省し、ぐるぐると考え、互いに会話を積み重ねることで、その姿を読者の前に明らかにさせてゆく。ミステリならではの、「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さ」とは別次元の、腰を据えてじっくり味わう種類の面白さなのである。そのうえ解明部分の盛り上がりはとてつもなくヘヴィーだし、その後の別の盛り上がりは、いけいけどんどんという感じだ。読み応えがあって、読了後の満足感は大きい。

 ついでのように事件に関して書いておくと、様々な出来事からうかがえる犯人の悪意が強烈だし、何度か目撃された正体不明の犯人の姿が不気味である。

 さらについでだけども。巻末解説によれば、次作「忙しい蜜月旅行」の原型となった戯曲が、雑誌「新青年」に訳載されているという。そういうことなら、しかるべき図書館にあたればコピーを入手できるはずだ。自分への心覚えのためにここに書いておく。

●今月の総括。
買った本:七冊
読んだ本:十一冊
今月は、月末に大部の本を読む計画を立てた。読了するのに一週間ほどの時間が欲しい。ある程度読了数を確保したい思惑と両立させるため、月初から月中までは、二日ほどで読了できる本ばかりを選んで手に取ってきた。