累風庵閑日録

本と日常の徒然

『<サーカス・クイーン号>事件』 C・ナイト 論創社

●発注していた遠近両用眼鏡ができてきた。早速かけてみると、スマホも本も、当然遠方もよく見えて、大変具合がよろしい。かけた直後は視界にかすかな違和感があったが、すぐに慣れた。それなりの出費だったが、作って正解である。

●『<サーカス・クイーン号>事件』 C・ナイト 論創社 読了。

 巻末解説にある記述が、この作品を端的に言い表しているようだ。曰く、「ロジックよりもストーリーの展開によって楽しませる体の作品」である。

 犯人捜しミステリにおけるふたつの主要な読み所、すなわち作者が仕掛ける犯人隠蔽の技巧も、手掛かりに基づいてロジカルに犯人にたどり着く経路も、どちらもこの作品では少々心細いようだ。特に、探偵が犯人を疑うきっかけとなった手がかりなんて、微妙すぎて些細すぎて、いっそ驚くほどである。

 かといってつまらない訳ではない。次から次へと事件が起きる展開の早さが好ましい。東南アジアの国々と周辺の洋上という舞台も魅力的。人物造形としては、極めて有能だがやけにナイーヴなキングスリー、憎まれ役でありながら身につまされるような哀れさを醸し出すサーストン、謹厳な人物として登場し、物語が進むにつれてだんだん嫌な奴になっていくウッズ船長、といった辺りが読み所。団員達の、使っている動物に寄せる想いも読ませる。

 結論として、読んでまあ満足。原書房の既刊も読むのが楽しみである。今後もし翻訳されればきっと買うだろう。そして読めばきっと楽しめるだろう。だが、続刊を切望するほどの感銘は受けなかった。やはり、上記の読み所が充実している作品の方が好みである。