累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ムッシュウ・ジョンケルの事件簿』 M・D・ポースト 論創社

●『ムッシュウ・ジョンケルの事件簿』 M・D・ポースト 論創社 読了。

 これは良い。切れ味で勝負するタイプの作品ばかりで、私の好み直撃の秀作短編集である。ここで傑作と書かないのは、頻繁に使われる定石が途中で見えてしまって、読み進めるにつれてだんだん驚きが減っていったからで。とはいっても、最後の最後に全てをひっくり返してずばっと断ち切るようにして終わる物語は、よくできた短編ミステリの面白さを十分に味わえる。感動はしないが感心はするというやつだ。

 特に気に入った作品はこんなところ。モンスター・ホラーから一転して現実世界に着地する、その反転ぶりが見事な「大暗号」、前半の南仏の描写が、突き抜けて身も蓋もない結末との落差を際立たせる「異郷のコーンフラワー」、ほぼロジックだけで構成されて密度が高い「三角形の仮説」。その他の作品も、ただ一編(具体名は秘す)を除いてすべてそれなりに感心した。翻訳されて本当によかったと思う。