●『ピカデリーパズル』 F・ヒューム 論創社 読了。
表題作は、読んでいる途中で評価が二転三転した。終盤まではなかなか快調。着実堅実な捜査の過程をじっくり描く作風は、私の好みである。それが終盤になると、なにやら様子が変わってくる。これでは犯罪メロドラマではないか。(伏字)解決、というパターンに落胆と諦めの気持ちを抱く。やはり十九世紀の作品だから、結局こういうスタイルに落ち着くのだろう。ところが最後の最後、事件の真相が判明するに至って、作者がなかなか意欲的な試みをやっていることが分かる。これには感心した。ちょっとした秀作である。
「小人が棲む室」は、お伽話を思わせる非現実的な雰囲気の、奇妙な作品。だがストーリーの骨格はお約束通りで、特に捻りはない。たまに読むならこういう素朴な味わいも悪くないし、シンプルな暗号ネタが効いている。
「幽霊の手触り」は怪談仕立ての佳品。ジョン・サイレンスやカーナッキを連想する。作品の読み所をきちんと説く巻末解説は、読み応えがある。力のこもった内容で、ミステリ史における興味深い説も提示されている。
ヒュームをまとめて読むのは初めてである。読み始める前は、古めかしくてテンポの鈍い退屈な作品だったらしんどい、と心配していたのだが、杞憂であった。精選された作品のおかげもあってか、十分楽しめた。来年にはぜひ、「二輪馬車の秘密」を読みたい。