累風庵閑日録

本と日常の徒然

『探偵小説の風景 トラフィック・コレクション(上)』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●宮崎旅行に持って行ってちまちま読んでいた、『探偵小説の風景 トラフィック・コレクション(上)』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 を読了。

 交通機関を舞台にした戦前作品を集めたアンソロジーである。なかでも鉄道ネタの作品は、ストーリーそのものだけではなく、描かれている旅の様子も大変に面白い。

 甲賀三郎「急行十三時間」は、途中のサスペンスと筋の捻りと結末のオチとが揃ってなかなかの快作。曾我明「颱風圏」は、昭和九年にこんなハードボイルドめいた作品が書かれていることに驚く。

 佐々木味津三「髭」は、ミステリとしてはかなり心細いむっつり右門シリーズの作者が、こんなロジック沢山の作品を書いたことが意外であった。(伏せ字)の手がかりもちょっと面白い。当然のように読者には結末まで伏せられているけれども。辰野九紫「青バスの女」は、ちょっとした余談のように見えた記述が、実はちゃんと意味があったという構成の妙が光る。