累風庵閑日録

本と日常の徒然

『山下利三郎探偵小説選II』 論創社

●『山下利三郎探偵小説選II』 論創社 読了。

「運ちゃん行状記」
 そそっかしい主人公のてんやわんやを描くコメディ戯曲。そもそもミステリなのかというと疑問はあるが、この軽妙さはけっしてつまらなくはない。こういうのも書けるなんて、作者はなかなか小器用な人だったようだ。

「見えぬ紙片」
 中盤までの捜査の模様や、個性的な探偵が現れて鮮やかな推理を披露する辺りは、型通りで安心できる面白さがある。だが真相を読者に示す段階になると、ロジックよりも人間ドラマが勝った筋の運びが、私の好みではない。戦前の探偵小説ならば、まあこんなもんだろう、とは思う。期待していなかったが故に期待を裏切られることもない、というような。巻末解説によれば、こういったものが本格として読まれていたらしい。その指摘にはなるほどと思う。

「野呂家の秘密」
 収録作中のベスト。中盤までの堅実な書きっぷりや、事件に取り組む人物の個性は、「見えぬ紙片」にも見られる魅力である。それに加えてこの作品では、ほほうそうくるか、という真相の意外さ面白さがある。こういう種類の意外性を導入していること自体が意外であった。

 本書は論創ミステリ叢書の第二十八巻である。これで、第三期までの三十冊を読み終えた。だがしかし、新刊に追いつくまでにはまだまだ先が長い。