●体調は依然として回復せず。終日に渡って短い眠りを繰り返しながら、その合間に本を読む。
●『宮野村子探偵小説選I』 論創社 読了。
これはしんどい。人間の哀れさ愚かさ哀しさを、ねっとりとした文体でじくじく書き綴るような作風は、辛気臭くてどうにもこうにも。好みとしては、個人短編集で立て続けに読む作家ではない。
と、そんな気分ですっかり期待値が低くなったおかげで、「斑の消えた犬」、「満州だより」、「若き正義」の三編は割と面白く読めた。ともかくも、事件の謎とその論理的な解決、という要素があるだけで読める。
「鯉沼家の悲劇」は再読だが、初読の時と同様に、結末前までは面白かった。そのときの感想日記にリンクを張ってもいいんだけれど、ここに簡単に再掲しておく。
「叙情味の勝った文章で悠々と描写を積み重ね、過去の様々なエピソードを織り込みながら、鯉沼という「家」とその一族、そして周辺の人々をじっくりと綴ってゆく。そしてようやく事件が起きれば、その後はたちまち物語がフルスピードで疾走し始め、この舞台この文章ならではの結末に行き着く。事件の解明部分は、ミステリとして決着をつけるための手続きのようなものだろう。お約束の手続きに、面白いもつまらないもない。その直前までは面白かった。」
収録作中のベストは、「木犀香る家」であった。作者の持ち味と私の好みの要素とが、上手い具合に兼ね備わっている好編。