序盤は、そもそも事件かどうかが問題になる。捜査を進めていくうちに別の問題が浮上し、やがて……と焦点が次々に変わっていって中だるみしない。登場人物に人間味があるのも面白さの一要素である。主人公プール警部は美人の関係者にくらっとくるし、その上司はプールの育ちの良さと高学歴とが気に食わない。
ミステリでちょいちょい出くわす特定の真相パターンに対する私の不満、すなわち(伏字)という点を、この作品はまさしくキーとして使っている。それでいてさして不満を感じないのは、状況設定と書き方の上手さのおかげだろう。全体が堅実で大人しめな作風だが、結末の着地点のおかげで一段階跳ねた感がある。