累風庵閑日録

本と日常の徒然

『<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件』 A・R・ロング 論創社

●『<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件』 A・R・ロング 論創社 読了。

 登場人物の造形がお見事。語り手のパイパーは現実的でユーモアもあり、欠点も含めて自分自身を冷静に把握している。ちょっとした虚栄心や真相に対する好奇心や、不安や恐れといった心の動きが抑えた筆致で描かれている。

 この抑えた筆致で、というのがポイント。大仰な感情表現が無いことが、私としては実に読みやすい。時に想像力が暴走しかけることもあるが、そこでぐだぐだ引っ張らずにさらりと処理してみせる。不安や恐れを、物語のサスペンスを維持する道具にしていない点が大いに気に入った。

 真相は、犯人と被害者との造形を含めて十分納得のいくもの。言われてみればなるほどそりゃあそうなるわな、と思う。その全体像を構成する様々な要素、様々な伏線が、最後になってすっきり収束して気持ちいい。もっとも十分納得はするけれども、真相の核の部分がコレじゃあ、読者が作品の結末に先んじることは難しいと思う。

 二点分からない事柄がある。ひとつは最後まで説明されなかった。どの要素が未解明のまま終わるかなんてことは公開では書けないので、この点はこれだけ。

 もうひとつをぼかして書くと、酒場を閉店後に出てから朝の五時まで何をやっていたのか? 読み落としかもしれないが、どこかに書いてあっただろうか。お読みになった方、どなたか教えてください。

 他にも書きたいことがあるが、長くなったのでもう終わる。面白かった。

●注文していた本が届いた。
『裁きの鱗』 N・マーシュ 風詠社