累風庵閑日録

本と日常の徒然

『飛鳥高探偵小説選V』 論創社

●『飛鳥高探偵小説選V』 論創社 読了。

 メインの長編「ガラスの檻」は、昭和サラリーマン哀話といったところ。事件とその展開とは面白いが、その一方で身につまされて読むのがしんどくもある。作中で描かれている空気感や人間関係の構造は、時代が違えど現代でも大きく変わってはいないようで。自分の現実を追体験したくてミステリを読んでいるんじゃあないのだよ。

 他にいくつかの作品にコメントを付けるならば。「矢」は短いページに密度の高いロジックとアイデアとが詰まった秀作。「二粒の真珠」は密室のアイデアは面白いけれども、肝心なところで(伏字)に頼っているのが残念。

「短刀」はよく練られた仕掛けを買う。「東京駅四時三十分」はこの作者にしては珍しそうなスパイアクションで、たまに読むならこういうのも口が変わって悪くない。

 他に、結末に関わるので題名は挙げないけれども、動機が面白かったのが二編、結末の落とし方がちょいと効いているのが二編。