累風庵閑日録

本と日常の徒然

『十一番目の災い』 N・ベロウ 論創社

●『十一番目の災い』 N・ベロウ 論創社 読了。

 なにやら不審な品を扱う犯罪組織。そんな組織が絡む殺人事件を題材にしたスリラーである。要所要所で偶然を大胆に取り入れ、起伏の大きさと展開の速さとで読ませるタイプ。事件の謎が明らかになる段取りは、特にどうということもない。読んでいる間面白いのは確かだが、これがあの、強烈な謎を読者に突き付けた「魔王の足跡」を書いた作家の作品か……

 ってな感想を持って平熱で読み進めていたのだが、読み終えてみると全然違った。これは紛れもなく、上出来のミステリ! なのであった。中盤に、メインの謎が見えてくる。その真相は意外だし、そこに至る流れはロジカルだし、ついでに私好みの些細な手がかりもある。まったく満足である。

 本書のもうひとつの面白味は、登場人物の造形にある。という内容を書こうとしたけど、残念、ここで気力が尽きた。興信所の秘書マーリーン、ラジオドラマの俳優モンティ、下宿屋の親父アート伯父さん、酒場の女主人ベッラなんて人々が魅力的。

 以下、余談。組織が扱う品の正体は、中盤で初めて明らかになる。ところが冒頭の登場人物一覧は、その辺りがはっきり分かるように書かれているのであった。