●『悪魔を見た処女』 E・デリコ/C・アンダーセン 論創社 読了。
表題作はなかなかの快作。巻末解説に指摘されているように、確かにロジカルな興味には乏しいし、この真相からするとあれれれ、と思う記述もある。だが、犯人設定のアイデアには大いに満足である。女中プーパンが見た悪魔とは何だったのか、という謎がこういう場所に着地するとは。
地の文の記述と、目撃者の証言との際どいバランスもよく書けている。事件が簡単に解決しないよう人の動きを調整する作者の手際もなかなか。さっぱり手掛かりがつかめない事件に難渋し、猫ばあさんに振り回される探偵役リヒャルド警部の造形がユーモラスでいい感じ。地道な展開は私好みだし、これはいいものを読んだ。
同時収録の中編、カルロ・アンダーセン「遺書の誓ひ」も、これはこれで読むのが楽しい佳品であった。中盤までは、とにかく尋問尋問また尋問。私の好きなタイプである。人々の言葉の積み重ねによって、状況がじわじわと明らかになってゆくのが面白い。関係者の分単位の行動を追ってゆくので、読みながらメモをとっていた。こういうとき、物語の展開を読んでいるのではなく、情報を読んでいるのだ。
真相のポイントはふたつある。ひとつは(伏字)点で、どうも好みではないのでちと割引したい。もうひとつはある文章の表現についてで、ぜひ現代の訳文で読みたいところである。なにしろ元の訳本刊行が七十五年前だからして。
●注文していた本が届いた。
『ワシントンスクエアの狂人館』 D・アリグザンダー 綺想社