累風庵閑日録

本と日常の徒然

『古書ミステリー倶楽部』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『古書ミステリー倶楽部』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 甲賀三郎「焦げた聖書」は、解決部分の荒っぽさが笑ってしまうほど。けれど解決に至るまでの、謎がどんどん広がってゆく展開はなかなか読ませる。二木悦子「倉の中の実験」は、二十年後の自分自身を想像して身につまされるものがある。

 石沢英太郎「献本」は、今とは異なる価値観が、異なっているが故に面白い。描かれている人間関係の悲喜こもごもは、文学が芸術の一分野として広く重く受け止められていた頃の時代相を反映しているのだろう。もしかして今でも、創作系の趣味の集まりでは同種の鞘当てが繰り広げられているのかもしれないけど。同様に野呂邦暢「若い砂漠」も、文学が今よりはるかに重視されていた時代を偲ばせる。