読めることに意義がある作品もちょいちょいある。亜智一郎のシリーズ七編は、毎回恒例の冒頭の言葉遊びと、ダイナミックな歴史の動きが垣間見えるところは面白い。だが、その辺りは装飾の要素である。作品そのものとして何を面白がればいいのか、どうも読み方が分からなかった。
紋の連作と「月の絵」とは良かった。謎とも言えないような人間関係の綾を、しっとりと描いて余韻が残る。本当なら一編ずつゆっくり味読したいところだが、生来のせっかちでがじゃがじゃっと読んでしまった。
「聖なる河」は、読者に解釈をゆだねて”そうとも読める”伏線の数々が秀逸。
収録作中のベストは、脚本「交霊会の夜」であった。しっかりページ数を確保して伏線を仕込んで、趣向沢山に仕上げたなかなか楽しい作品。