累風庵閑日録

本と日常の徒然

『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社 読了。

「冷凍人間」
 犯罪組織を抜けようとして制裁された男。製氷会社の冷凍室で凍死させられそうなところを、彼は危うく逃げ出す。しかしその影響で体が凍ったままの冷凍人間になってしまった。組織に対する冷凍人間の復讐が始まる。

 これはまるで、スパイダーマンかなにかの悪役ではないか。なかなか愉快である。途中の展開から結末に至るまでの構成が整っており、きちんとまとまったものを読んだ満足感がある。

「透明人間」
 こちらも怪人が跳梁するタイプの作品で、続けて読むとちと飽きる。「冷凍人間」の倍の分量で、あらかじめ予告された不可解な殺人というパターンが何度も繰り返されるので、やや間延びしている。真相はいかにもなジュブナイルらしさ。そういった点からして、こちらは評価が高くない。

「鳥羽ひろし君の推理ノート」シリーズは、内容がバラエティに富んでいて飽きない。化学ネタ、言っちゃあ悪いが他愛ない暗号ネタ、そして不可能犯罪ネタまで。気に入ったのは、ジュブナイルにしては筋立てが凝っている「冬来たりなば」、シンプルで効果的な伏線が嬉しい「黒木ビルの秘密」といった辺りである。

 気に入ったのとはちと違うが記憶に残る作品は、ミステリと言うより(伏字)ネタの怪奇小説「真夏の犯罪」、今ではとても書けそうにない内容とグロテスクですらある展開の「鯉のぼりの歌」ってなところ。

「悪魔の手」は、横溝正史ジュブナイル短編「真夜中の口笛」を連想する。また、ネタの再利用が見受けられるのも興味深い。