累風庵閑日録

本と日常の徒然

『大阪圭吉探偵小説選』 論創社

●『大阪圭吉探偵小説選』 論創社 読了。

 収録作はどれもこれも、主人公の探偵が外国のスパイ組織を摘発する話である。犯罪も犯人設定も同工異曲なので、そういう点では面白味に乏しい。読み所は、敵組織がどうやってスパイ活動を行うかのアイデアにある。

 秀逸作として、冒頭の謎が魅力的な以下の三作を挙げておく。
「疑問のS」は、謎の怪音と空を舞う紙の謎。分かってしまえば他愛ないけれども。犯行自体も、ホームズシリーズの某作が発想の根っこにあるのではと思われる秀逸なもの。

「街の潜水夫」は、街のど真ん中に潜水夫が現れるという、なんとも魅力的な謎。衆人環視のなかでの潜水夫消失というネタもあるし、その解決もシンプルで好ましい。

「紅毛特急車」は、夫婦揃いの品物が何度も何種類も列車に忘れられる謎。犯罪組織のやり口も気が利いている。

 これらとは別に長編「海底諜報局」は、ちょっとした海洋冒険小説の味わいが新鮮。敵方に囚われた探偵助手のエピソードにまとまった分量が割かれてあって、そのサスペンスもなかなか読ませる。

 内容については以上のようなものである。それはそれとして、なにしろ戦時中に書かれた作品ばかりだから、文章の端々に漂う時局臭がまことに香ばしい。(以下、ネガティブなことを書き連ねているのでごっそり非公開)そんな文章を読むのは、なかなかにしんどい。うんざりしてページをめくる手が止まる。月曜に手に取って結局通読できずに、間に別の本を挟むことにした。読了までに五日もかかってしまった。