累風庵閑日録

本と日常の徒然

『骨と髪』 L・ブルース 原書房

●『骨と髪』 L・ブルース 原書房 読了。

 事件の依頼人は、従妹がその夫に殺されたと主張している。主人公キャロラス・ディーンが調査を進めると、次第におぞましい大量殺人の可能性が浮上してくる。しかしながら可能性はいつまで経っても可能性でしかなく、いくら調査を進めても不穏でいながらつかみどころのない状況が進展しない。

 真相はどうかすると拍子抜けしそうなものだが、本書では気にならなかった。謎の方向性が事件の全体像を探るタイプなので、解決の興味が(伏字)の一点のみに依存していないのである。また、事件の様相も人間関係も複雑にからみ合っているにもかかわらず、結末に至って解き明かされた真相は実にすっきりとしている。このシンプルさが好ましい。

 魅力的な登場人物が多いのも読みどころ。新規の客には誰彼構わず以前会ったことがあるんじゃないかともちかける酒場の亭主ロフティング、スタウトに目がない雑役婦ラゲット夫人、なにかというと腹を抱えて笑いたがる石炭商トフィンズ氏、ディーンが殺人事件に関わるのが嫌でたまらず、すぐに辞めると言いだす家政婦のスティック夫人など。個性的な面々とディーンとの掛け合いが、読んでいて楽しい。