累風庵閑日録

本と日常の徒然

『或る豪邸主の死』 J・J・コニントン 長崎出版

●『或る豪邸主の死』 J・J・コニントン 長崎出版 読了。

 村の屋敷で起きた殺人事件に、治安判事サンダーステッド大佐が取り組む。ところがこの大佐殿、お世辞にも名探偵とはいい難い。関係者の中に自分の身内がいると分かると、真相解明よりも身内と自分とが事件に巻き込まれないことの方を重視し始める。被害者が悪辣な人物だったこともあって正体不明の殺人者に肯定的な感情を抱き、ついには(伏字)までやってのける。他にも俗っぽい面が多々あって、人間臭い大佐の造形がひとつの読みどころ。

 作中には、奇妙な要素がいくつか出てくる。はるか遠方から相手の心臓を狙って止めてしまう殺人光線、近いうちにむごたらしい死がやってくる予兆だという緑の悪魔、透明人間、誰もいないはずの家からかかってきた電話。これらを積極的に使えばこってりしたオカルトミステリに仕立てることもできそうなのに、なぜか扱いがやけに軽くて薄味に仕上がっている。不思議なバランスである。

 真相は(伏字)といった私の好みではない要素がいくつかあって、残念ながらあまり感銘は受けなかった。

●定期でお願いしている本が届いた。
『ケンカ鶏の秘密』 F・グルーバー 論創社
『ウインストン・フラッグの幽霊』A・R・ロング 論創社