累風庵閑日録

本と日常の徒然

横溝正史読書会

●第二回横溝正史読書会の日程が決まった。課題図書は、去年の十二月に角川文庫から出た『人形佐七捕物帳傑作選』である。

 読書会では、ただ素直に物語を楽しんでその感想を語り合うのが、最もストレートなアプローチであろう。だが、別のアプローチもあり得る。横溝正史に改稿癖があったことはご存じの通り。そのおかげで人形佐七シリーズは、ひとつの作品に複数のバージョンの存在が珍しくない。そこで、課題図書に収録された作品のバージョン違いを調べるというアプローチを考えてみる。

 まずは巻末の記載により、角川文庫の底本は昭和四十六年に刊行された『定本人形佐七捕物帳全集』であることが分かる。次に、とりあえず手持ちのテキストで、比較的早い時期に刊行されたものをリストアップしてみる。

◆角川文庫収録作(作品の初出年) ⇒ 手持ちの収録本(本の刊行年)
・羽子板娘(S13) ⇒ 『新編人形佐七捕物帖』 春陽堂書店(S27)
・開かずの間(S27) ⇒ 『鶴の千番』 金鈴社(S47)
・嘆きの遊女(S13) ⇒ 『新編人形佐七捕物帖』 春陽堂書店(S27)
・蛍屋敷(S14) ⇒ 『人形佐七捕物帖』 春陽堂(S25)
・お玉が池(S17) ⇒ 『新編人形佐七捕物帖』 同光社(S26)
・舟幽霊(S29) ⇒ 『坊主斬り貞宗』 金鈴社(S45)
  ※伝七捕物帳の「舟幽霊」が原型
・梅若水揚帳(S43) ⇒ 『梅若水揚帳』 金鈴社(S43)
  ※単行本書下ろし。お役者文七の「恐怖の雪だるま」が原型

 これらを比較すると、何か発見があるかもしれない。ただ、ひとつ重要なポイントは、ここでリストアップした本と初出との間にも異同があるかもしれないということ。つまり、角川文庫版と同じか違うかという検証はできるが、全部で幾つのバージョンがあるかの検証はできないのである。そして実際のところ、読書会までにどの程度読み比べを実行できるか分からない。それに、多少得るものがあったとしても、読書会の場で話せるほどのネタになるかどうかも分からない。そんな覚束ない見通しではあるけれど、せめて原型版伝七捕物帳くらいは読んでおきたいと思う。