累風庵閑日録

本と日常の徒然

『夜間病棟』 M・G・エバハート 論創社

●『夜間病棟』 M・G・エバハート 論創社 読了。

 ミステリのサブジャンルのうち、いわゆるロマンティック・サスペンスというやつが、どうにもこうにも好きになれない。そんなロマサスの代表的な書き手エバハートの著作なので、さぞや、と警戒しながら手に取った。ところが、だ。語り手の主人公が、なんと大事な証拠を隠さないのである。大事なポイントでとっさに嘘をつかないのである。一度は証拠を隠そうとするけれども、結局中盤までに、彼女が掴んだ情報も物的手がかりも、全て警察に伝わってしまう。この展開にはちと驚いた。また、事件と同等のウェイトで、愛しいダーリンとの惚れたハレたが語られるようなことがない、というのも驚き。これならしんどい思いをせずに読める。

 では肝心の、ミステリとしての面白さはどうか。残念ながら私の好みではない要素がいくつも出てきて、あまり感銘を受けるものではなかった。ただ、訳者あとがきによれば細かな描写に伏線があるということなので、再読すれば評価は変わるかもしれない。好みでない要素の具体例については、内容に触れるので非公開で書いておく。

(以下、一段落分非公開)

 もう一点。読みながら連想したのは、ディクスン・カーのエッセイ「地上最高のゲーム」の一節であった。創元推理文庫『黒い塔の恐怖』からその部分を引用すると、

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ちょうど凶行時間の頃に、書斎の窓の外を、次々とではあるが八名もの怪しい男女がうろついていたという(P.222)
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ミステリに対するディクスン・カーの愛あるツッコミが、本書の状況と似通っていて可笑しい。