累風庵閑日録

本と日常の徒然

『五つの箱の死』 C・ディクスン 国書刊行会

●『五つの箱の死』 C・ディクスン 国書刊行会 読了。

 メインの謎は至ってシンプル。誰にも投入できたはずのない毒がどうやって飲み物に混入されたか。真相もまた単純明快で、私は思い浮かばなくてなるほどと感心したけれども、何かのはずみにぱっとひらめいてもおかしくないだろう。カーとしてもさすがにこんなシンプルなネタのみで長編を支えるつもりはなかったのか、周辺に様々な状況設定を盛り込んで事態を複雑にしている。読み進めるうちに、こんがらがった状況が次第に明瞭に整理されてゆくのもミステリの面白さである。

 いつものカーなら、表情とかちょっとしたしぐさとか、そんなの気付くわけないだろ、という手掛かりが多い。ところが本書では、この投薬手段が同時に犯人の絞り込みにつながっているのがいい感じ。他にも犯人を指し示すそれなりに明確な手掛かりが散りばめられていて、解明部分を読むのが楽しい。で、肝心の犯人設定はかなり意外であった。前書きによればアンフェアという声もあったようだが、私は肯定である。カーは似たような趣向を「(伏字)」でもやってるし。

●注文していた本が届いた。
『幕が下りて』 N・マーシュ 風詠社