累風庵閑日録

本と日常の徒然

『疑惑の銃声』 I・B・マイヤーズ 論創社

●『疑惑の銃声』 I・B・マイヤーズ 論創社 読了。

 これは凄い。その衝撃は、ミステリのネタだとかストーリーの捻りだとかとはまるで別次元である。この題材をこう扱うか、という嫌な嫌な味の驚きがある。約八十年前のアメリカの価値観が、むき出しのまま現代の読者に叩きつけられる。

 肝心なミステリとしての面白さだが、読んでいてどうも気持ちが盛り上がらない。その原因は探偵役の造形にある。劇作家ジャーニンガムが事件に取り組むそもそもの動機は、遺族にとって最も都合のいい結末を導くことにある。そのためには、証拠の隠蔽や嘘の証言もためらわない。ある専門家に手がかりの鑑定を依頼するが、なんとまあ、最初から自分の望む結論に沿った鑑定結果を要求するのである。「公平でいてほしいと頼んでいません」だと。自分の推理に合わせて手がかりを捻じ曲げる探偵なんざ、ミステリのパロディにしかならないではないか。

 ロジックの面白味には乏しく、結末は甚だ唐突。切れ味鋭い、と言いたいところだが、これって短編小説の書き方であるな。でもまあ結局のところ、様々な要素が納まるべきところに納まっている点は評価したい。とにもかくにも形は整えましたね、と。

 ところで第一作『殺人者はまだ来ない』に興味が出てきたのだが、あいにく持っていない。昔は古本屋で当たり前に見かけたものだが、なんとなく興味を感じずスルーしているうちに、入手できずじまいになってしまった。今から探しても、見つけるのにちょっと苦労するかもしれない。電子書籍になっているというから、紙の本での復刊も期待薄であろう。いやはや。

●二回しか使っていない「18きっぷ」を、チケットショップに持って行った。買取価格は六千円ちょい。上出来である。