累風庵閑日録

本と日常の徒然

裸姫と謎の熊男

●横溝関連プロジェクト「人形佐七映画のシナリオを読む」の第三回は、新東宝で昭和三十四年に作られた「裸姫と謎の熊男」と、原作の「雪女郎」とを読むことにする。

●まずは原作を読む。今回手に取ったのは、昭和二十二年に杉山書店から出た『人形佐七捕物文庫 狸御殿』である。

 ある雪のひどい晩、床屋の親方清七が雪女郎にとり殺された。その死に様は、外傷はないが肋骨がばらばらに砕けているという凄まじさ。しかも近くに熊の毛が落ちていた。雪女郎が使い魔の熊に命じて抱き殺させたのだろうか、という怪奇小説じみたオープニングである。

 やがて清七と死体発見者で親友の伊之助とに絡んで、雪女郎の正体ではないかと思われる娘の一件が浮かび上がってきた。彼らの嫌がらせによって将来の望みを絶たれた娘お雪が、川に身を投げて死んだのである。お雪は幽霊となって清七をとり殺し、次は伊之助に魅入るのではないかと思われる。ここに至って、物語は妖怪譚から幽霊咄へと変じたのであった。

 メインのネタは、よくある(伏字)というもので、特にどうということはない。けれど、雪女郎や謎の熊なんて題材を持ってきたオープニングは、いい感じの盛り上がりを見せる。雪女郎と熊の正体が、それぞれ(伏字)だというのがちとずっこけるけれども。佐七の働きは、物語を結末に導く触媒として位置付けられており、真相の詳細は関係者が語ることで読者に示される。こういう展開は、ページ数が足りない作品ではよくあるパターンである。

●次にシナリオ「裸姫と謎の熊男」を読む。

 なんだこりゃ。全然別の話になってやんの。江戸の豪商やその家族達が次々に殺されるド派手な展開である。原作ではあくまでも庶民の間の事件だったのに対し、シナリオでは某藩の江戸家老も関係する過去の因縁が背景となる。

 人間入れ替わりネタの様々なバリエーションが描かれて、なんとも賑やか。佐七のライバルでありときには協力して事件に当たる、紅殻おそでなんて女目明しの登場が、いかにも大衆娯楽時代劇らしい。アクションシーンがふんだんに盛り込まれ、お色気シーンもちらほら。当然最後もアクションシーンで〆る。今回のシナリオは、そのあまりな改変ぶりがいっそ楽しく、なかなかの出来栄えであった。で、やっぱり映画本編を観たくなる。