累風庵閑日録

本と日常の徒然

『鉄路のオベリスト』 C・D・キング 論創社

●『鉄路のオベリスト』 C・D・キング 論創社 読了。

 心理学と経済学とに関わる議論が何度も繰り返される。その部分の意味がさっぱり理解できず、目が文字の上を滑ってゆくばかり。作者はなぜこんな事を長々と書いたのか、不思議な作品である。もともとが心理学者だったというから、自らの知識がつい溢れ出てしまったのだろうか。

 それはそれとして、肝心のミステリの面白さはどうか。早い段階で死体が登場するが、いくら調べても自然死としか思えない。その先ありがちな展開を考えてみると、何かのきっかけで意外な死因が判明して、やっぱり殺人だったのだ!! ってことになるだろう。だが、この作品ではなかなかそうはならないようで。このネタでこんなに引っ張るとは思わなかった。結局、ちょっとした盲点を絡めた真相が面白い。

 巻末の手がかり索引がひとつのウリのようだが、それよりも(伏字)という二点の手掛かりに感心した。その一方で、どうやら作者が自信を持っているらしい(伏字)の趣向は、まあ小ネタだわな、と思う。

 全体として、大陸横断鉄道という題材が魅力的。旅の途中の情景描写がちょいちょいあって、大いに楽しめた。スケールは桁違いに小さいけれど、以前一度だけ乗ったトワイライトエクスプレスの旅を思い出す。そして、久しぶりにサンライズに乗りたくなる。