累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第三回

●午前中は野暮用。

●午後からは横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第三回をやる。

◆「残りの一枚」 エフ・ヂ・ハースト(大正十四年『新青年増刊』)

 大富豪バーンスは、とある事情で甥ロバートに対して大変なご立腹。遺言状を書き換えて、甥には遺産が一文も渡らないようにするという。顧問弁護士によれば、バーンスが新規の遺言状に署名するのは三日後。それを聞いたロバートは、青ざめた顔で弁護士事務所を後にした。ところがその出来事の裏にはある陰謀が……

 この捻りは悪くないのだが、なにしろわずか五ページの小品で、あっという間に終わる。

◆「マハトマの魔術」バートン・ハーコート(大正十四年『新青年』)

 チベット魔術の使い手と自称するツリモータンと、その術を信じない有閑青年マロニーとの間で賭が行われた。複数の証人の前で魔術を実演できるかどうかが賭の対象である。やがて指定の期日になり、いよいよツリモータンの術が始まった。

 ツリモータンが想像以上にしたたかで、日本昔話の、狐に化かされる和尚/庄屋/猟師の話を読むような味わいがある。

 ところでこの作品で描かれた魔術は、横溝というよりは乱歩好みである。細い糸を伝い登って空中に消えた少年と、それを追いかけて同じく空中に消えた魔術師。やがて、空から少年のバラバラ死体が降ってくる。血塗れのナイフを咥えて降りてきた魔術師が、少年の体のパーツを鞄に詰め込むと、そこから元通りの少年が飛び出してきた。

 こういった術の展開は、以前何かで読んだような気がする。たとえば、妖しげな魔術師に化けた怪人二十面相が、少年探偵団を驚かすためにこんなシーンを演じてみせるなんざ、いかにもありそうなのだが。お立ち会いの諸賢に、心当たりの小説はございませんか?