累風庵閑日録

本と日常の徒然

『地中の男』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫

●『地中の男』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫 読了。

 これはどうも、大変な作品である。複数の家族間の人間関係が滅茶苦茶に入り組んで、からみ合いもつれ合って複雑怪奇。ロスマクの作劇法が天井を突き抜けた感がある。その複雑さは事件の全体像にも及び、腰を据えて噛みしめるように読んでゆかないと把握できなくなるだろう。

 真相はかなり意外である。ミステリ的な外連味を伴う意外さとはニュアンスが違うけれども。作者の筆によって運ばれ流されてたどり着く場所が意外なのである。

 これもロスマクの特徴で、ちょっとした脇役だと思っていた人物が実は主要な立ち位置にあることが、突如判明するから油断がならない。さらにその人物が本当の本筋ではなくて、全く別の本筋が横から突如立ち上がってきたりするからなおのこと油断がならない。

 ただでさえ人間関係が錯綜しがちなロスマク小説を、さらに煮詰めて特濃に仕立てたような作品であった。

●木曜に書店に寄って本を買ったのを今日の日記に書く。
『夜光怪人』 横溝正史 柏書房
 雑誌「王冠」版の中絶作品「深夜の魔術師」が収録されているのが素晴らしい。未発表原稿「深夜の魔術師」と「死仮面された女」とが活字化されて収録されているのも素晴らしい。素晴らしい。

●今日も書店にでかけて本を買う。
『オルレアンの魔女』 稲羽白菟 二見書房