累風庵閑日録

本と日常の徒然

『フランドルの呪絵』 A・P・レベルテ 集英社

●『フランドルの呪絵』 A・P・レベルテ 集英社 読了。

 これは面白かった。ふとした気まぐれで買って積ん読二十三年、思わぬ拾い物であった。絵画に隠された五世紀前の殺人の謎と現代の事件とが交錯するサスペンスである。

 文章は、良く言えば丁寧、悪く言えばセンテンスが長くてくどい。読み進めるのがちとしんどい。二段組みで改行が少なくみっちり詰め込まれた文章でもって、情景も登場人物達の感情のゆらぎも、じっくりと描かれる。一方で、展開はそつなく型通り。だからこそ、その面白さは実に分かりやすい。

 昔の殺人を解明するための鍵になるのが、描かれたチェスの譜面で。その謎に取り組むチェスの天才ムニョスが、なかなか魅力的なキャラクターである。臆病で、無気力で、だらしない。けれども一度チェスに向かうと、たちどころに目付きが変わり頭脳がフル回転を始める。

 敵役は謎のチェスプレイヤー。自らは正体を隠したまま、生身の人間を駒に見立てたチェスの勝負を、主人公達に仕掛けてくる。中盤以降は現代の事件をとりまく不気味さが次第に強まってゆき、なんとなく、ダリオ・アルジェントの『サスペリア2』なんかを連想する。原作はスペインの本なので、その連想はちょっとずれているけれども。