累風庵閑日録

本と日常の徒然

『世界怪談名作集 下』 岡本綺堂編訳 河出文庫

●『世界怪談名作集 下』 岡本綺堂編訳 河出文庫 読了。

 素朴で古雅な作品集であった。なにしろ原本の刊行が昭和四年なのである。そのあまりの古風さに、去年のことだが上巻はかなりてこずった。今回ようやく、下巻を読み終えた。

 アンドレーフ「ラザルス」が面白かった。三日間墓に入った後、復活した男ラザルス。一度死の世界を覗いた彼の眼は、底知れぬ闇を湛えている。彼が見つめる相手は、たちどころに活力を失い生の喜びを失い、虚無と怠惰とに憑りつかれる。

 夕闇の中、はっきり見えないラザルスに話しかけたある人物の台詞。
「そう、どうも私を見ているような気がしますがね。なぜ私を見つめているのです。しかしおまえさんは笑っていますね」
こういうのが怪奇小説の面白さである。ラザルスがどういう目付きをしていたのか、どういう笑い方をしていたのか。どちらも読者の想像に委ねられている。

 ストックトン「幽霊の移転」も、奇天烈な面白さがある。ある人物Aが死ぬと、A自身の霊魂がAの幽霊になるわけではない。別個の何かがAの幽霊に任命されるのだという。大病に罹ったヒンクマン氏の死に際にも、彼の幽霊が任命された。ところがなんと、ヒンクマン氏は回復してしまう。ヒンクマン氏の幽霊である権利がなくなった「ヒンクマン氏の幽霊」が、主人公に助けを求めてくる。幽冥界のルールの奇妙さは、まるで落語のようだ。

 その他、クラウフォード「上床」やモーパッサン「幽霊」も秀逸。

●午後はジムに行って汗を流す。

●夕方から、電車に乗って東京に出る。今晩は飲み会があるのだ。