横溝正史は依怙贔屓しているので、内容を問わず収録作品全部オッケーである。本書の刊行までは単行本未収録だったレア作品の数々が、こうやって本の形になって読めるのだ。それだけでもう、素晴らしいではないか。
「ルパン大盗伝」
ルブランの「水晶の詮」を原作にした翻案で、ストーリーは大きく異なっているそうな。結末が、独自の展開かどうかは分からないけれども、凄いことになっている。一見ハッピーエンドのようだが、おいおいおい、(伏字)ては駄目だろう。原作はその昔、あかね書房版の「水晶のせんの秘密」を読んだことがある。当然内容は全く覚えちゃいない。大人向け翻訳は、ハヤカワ文庫で買って積んである。これも読まなきゃならない。ルパンに関しては、宿題が大量にあるのだ。
「恐ろしきエイプリル・フール」
角川文庫版でカットされた冒頭の二段落を復元しているという。こういう小ネタも嬉しい。もう一点、栗岡の独白で言及されている「こんな小説」とは、何だろうか。この件はどこかで読んだような気がしないでもないけれど、この歳になると忘却力が旺盛になって、どうにも思い出せない。
※11/22追記
確認したら、角川文庫で冒頭の二段落はカットされていなかった。巻末解題でなぜカットされていると書かれたのか不明。カットされた版があるのだろうか。
※12/25追記
『横溝正史探偵小説選II』巻末の「お詫びと訂正」によれば、削除の事実はないとのこと。この件はこれで完結。
「首を抜く話」
収録されているのは『文芸倶楽部』版である。手持ちのコピーは『新青年』版である。両者を比較してみると、巻末改題の記述以外にも異同があることが分かった。最後から二番目の段落、「さあ、大変です。~泣き出してしまいました。」は、『新青年』版には無い。
「堀見先生の推理」
なんとこんなところにホームズネタが。主人公は堀見俊六で、シュンロク・ホリミだ。
評論・随筆・読物篇では、いくつかの個所でファーガス・ヒュームに触れられている。それを読むと俄然、「二輪馬車の秘密」を読んでみたくなった。近いうちに読む。