累風庵閑日録

本と日常の徒然

『守友恒探偵小説選』 論創社

●『守友恒探偵小説選』 論創社 読了。

 収録作中のベストは「死線の花」で、複数のネタを少ないページに盛り込んだ高密度の良品であった。結末の切れ味と、そこに漂う抒情性も買う。他に気に入ったのは、語り口が軽快な「燻製シラノ」と、構成がしっかりしている「孤島奇談」の二編。

 メインの長編「幻想殺人事件」は、登場する捜査陣の言動や考え方が、ロジックという観点ではちと心細い。有力容疑者を逮捕しておきながら、どうも犯人ではなさそうな気がする、という理由で別の人物を追求したりする。

 だが、結論としてはそれなりに満足。登場人物の性格設定が真相のカモフラージュに結び付いている辺り、なるほど、と思う。犯人はどこへ消えたのか? という謎に対する解答も気に入った。単純な(伏字)ネタだけならあまり高く評価できないところだが、そのネタが人物や舞台と上手く結びついており、納得させられてしまう。

●お願いしていた本が届いた。
渡辺啓助探偵小説選II』 論創社

 論創ミステリ叢書の第百二十巻である。一方、守友恒は第五十一巻である。順調に刊行が続くのは素晴らしいことだが、読む方が新刊に追いつくのはまだまだ何年も先のことになる。気の長い話である。