感想を書き始めたら、書いても書いても終わらない。無闇に長いのを公開してもしょうがないので、以下、抜粋版を公開する。
「鋼鉄魔人」
繰り返される怪人消失の不可能興味と怪奇ムードとで、場面毎にそれなりに盛り上がりを見せる。メインの趣向は、(伏字)という、大胆かつ人を喰ったもので、膝の裏をカックンとされるような面白さはある。それをやっちゃおしめえよ、と思わないでもないが、ジュブナイルに突っ込んではいけない。
「寄木細工の家」
グロテスクなサイコサスペンス。映画『SAW』シリーズを連想する。こういう内容がジュブナイルで書かれたというのがちょいと驚く。
「神変龍巻組」
これは面白い。ポプラ社の単行本で読んだのが十一年前。当時の日記を確認すると、やや退屈だったようだ。だが今回は面白い。同じ横溝の時代伝奇小説、「神変稲妻車」のブッ飛んだ面白さに気付いてから、この手の作品の読み方楽しみ方が見えてきたようだ。
多彩な登場人物が次々に登場し、目まぐるしく変わる場面場面でスリルとサスペンスとを盛り立て、物語はフルスピードで突き進んでゆく。吊り天井がギリギリと下がり、大凧が空を舞い、忍術使いは大蛇に化け、猛犬は牙をむく。猿飛佐助の息子菊童が吐いた黒気は凝って海坊主の幻影となり、敵方の妖術師蝉丸は霧と化して空を飛ぶ。
それにしても、主人公だと思っていた国松丸は、捕らえられているばかりでほとんど何もやっていない。副主人公格のうろくず姫は、思慮が浅くヒステリック。そういった「いいもん」側とは対照的に、敵役辰砂源兵衛の造形がちょいと秀逸である。この男、諸国諸海を渡り歩いたつわもので、野心満々の人物。太平になりつつある世情に我慢できず、天下に風雲を巻き起こそうとたくらんでいる。キリシタンだとはいっても心から帰依しているわけではなく、宗徒の強い結束力を利用してやろうとの下心を持つ、なかなかの食わせ者である。
巻末解題にあるように、この作品のポイントのひとつが、改稿にある。本書が底本とした初出誌とポプラ社の単行本との間で、かなり異同があるというのだ。時間と気力とがあれば、自分の目で詳細に比較してみたい。これは今後の宿題にしておく。