累風庵閑日録

本と日常の徒然

第三のバージョン

●午前中は文フリ。あらかじめチェックしていた三冊を購入し、神保町横溝会にご挨拶申し上げ、さっさと会場を立ち去る。

●午後はとある美術館の展示を観に行く。だが、特に心に響くような展示物はなかった。これは展示会の質が低いわけではなく、午前中で疲れてしまって鑑賞に集中できなかったのが悪かったようだ。ざっと流す感じで観てしまって、残念なことである。内容に関してコメントもないので、詳細は省略。

●なんとまんだらけさんから、入手し損ねたと思っていた『吸血鬼の島』特典小冊子、『譚海掲載「犯人あて大懸賞」セレクション』を別送していただいた。律儀でありがたいことである。

●昨日買った古本と届いた本。
『特種はカリブ海』 M・J・グローヴ YELLOW BOOKS
『屍島のイブ』 魔子鬼一 盛林堂ミステリアス文庫

●昨日、上野の国際子ども図書館で、横溝正史関連の文献調査を行った。具体的には、昭和三十年ポプラ社刊の『まぼろし曲馬団』に収録された「七人の天女」と、昭和三十一年偕成社刊の『青髪鬼』に収録された「片耳の男」と、それぞれの記述を確認した。どちらもデジタルデータになっているので、端末で閲覧できる。両者は題名が異なるだけで、同じ作品である。

 四月二十二日の日記に書いたけれども、ヒロイン鮎沢由美子の兄の研究対象が、時代によって変わっている点に注目している。昭和十四年の初出では「飛行機に関係がある」と書いてあるが、角川文庫版では具体的に示されていない。

 今回確認した結果、「片耳の男」では研究対象が明記されていなかった。それはいいのだが、問題なのは「七人の天女」である。なんと「ジェット・エンジンに関係がある」と書いてあるではないか。第三のバージョンがあったのである。

 これって実は致命的なことで。まあ、最初から分かっていたことでもあるけれど。

●現在こうやって、横溝ジュブナイルの初出にいろいろ手を出しているそもそもの目的は、角川文庫に収録されている作品に対する山村正夫の影響調査である。ところが、初出と角川文庫とを比較しても、厳密な影響調査なんてできやしないのだ。正史自身が改稿癖を持っているので、その中間バージョンでどれだけの異同があるのか分からない。山村正夫の影響を、分離抽出できないのである。ううむ……

●保留事項が一点。偕成社の『青髪鬼』は、昭和二十九年が初版のようである。奥付には初版だの再販だのの情報はなかったけれども。したがって、もしかしたら初版ではこの辺りの記述が異なっている可能性がある。

●補足事項が一点。「七人の天女」の初出誌、『少女の友』(昭和十四年九月号)は、国会図書館でデジタルデータ化されている。したがって、子ども図書館の端末で閲覧・複写ができる。

●子ども図書館では他に、以下の作品の初出テキストをコピーした。
「悪魔の画像」
「真鍮の花弁」
「薔薇の怪盗」
「ヴィーナスの星」