累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ニュー・イン三十一番の謎』 A・フリーマン 論創社

●『ニュー・イン三十一番の謎』 A・フリーマン 論創社 読了。

 どうやらフリーマン、作品をきっちり構築することには熱心だが、物語を盛り上げようという気はあまりないようだ。かなり早い段階で、おおまかな真相には見当が付いた。ところが語り手のジャーヴィスは、いつまで経っても五里霧中である。ソーンダイク博士からは、今まで集めた手がかりに基づいて事件を検討しろと言われるものの、よく分からない、何も思い浮かばない、とぼやくことしきり。

 大抵の読者がとっくに事件のキモに気付きそうな段階でも、ジャーヴィスだけは気付かずに延々と困惑している。こいつは少々じれったい。どうしてこういう構成にしたのか。

 とまあ上記のようにあれれれ、と思う点がないではないが、全体としては全く満足。その面白さは、地道な捜査と緻密なロジック。ソーンダイク博士は丹念に情報を集め、現場に出向いて手がかりや物証を捜し、必要ならご自慢の実験室で研究する。その様子がなんとも着実堅実で、私の好みにぴったりである。

 解決部分ではたっぷりとページを使い、博士が大量の手がかりを丁寧に拾いながら論証を重ね、真相を描き出して見せる。これぞミステリの面白さである。