累風庵閑日録

本と日常の徒然

『「宝石」一九五〇 牟家殺人事件』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『「宝石」一九五〇 牟家殺人事件』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 メインの長編、「牟家殺人事件」が面白い。二百ページ少々の決して長くない分量のなかで、牟家の人々がころころと殺されてゆく派手な作品である。個々の殺人についてじっくり語るページの余裕がないために、物語はまるでフルスピードで疾走するようだ。巻末解説によれば戦後ミステリの第一のピークだったというこの年の、斯界にみなぎっていたであろう勢いが感じられて微笑ましい。そして真相の、馬鹿馬鹿しくなる寸前の異様な意外さには笑ってしまった。

 他の収録作中のベストは岡沢孝雄「四桂」で、事件も題材も真相も探偵役がぐるぐる考える様子も、なかなかのもの。