先月に半分読んだ残りを、隙間時間に細切れで読んでいった。最初はどうということもなかったのだが、二編三編と読んでいくにつれて文章の滋味を感じるようになった。まことによろしきものである。以下、簡単なコメントを書いておく。
「等々力殺人事件」は巻末の作品ノートにあるように某海外ミステリが元ネタだが、その換骨奪胎がしっくりきている。真相の不気味さも上々。「松王丸変死事件」は描かれる悪意が異様な迫力。「盲女殺人事件」は雅楽が真相に気付くきっかけがいいし、事件の中心部に盛り込まれている(伏字)ネタもいいし、幕切れもお見事。
「不当な解雇」は謎が魅力的だし、真相に漂うどことない可笑しさもいい。「ほくろの男」は、発話と表情とに関する機微が興味深い。「滝に誘う女」は、犯人がぼろを出すきっかけとなった些細な一言が効いている。作品名は挙げないが心理の盲点をネタにした某作もなかなかのもの。
二巻目以降も楽しみである。