累風庵閑日録

本と日常の徒然

『地下鉄サム』 マツカーレイ 平凡社

●『地下鉄サム』 マツカーレイ(表記ママ) 平凡社 読了。

 世界探偵小説全集の第七巻である。横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十一回として、今日は残っていた同時収録のビーストン三編を読む。一月から細切れに取り組んでいたのを、ようやく読み終えた。伏線も何もない、ビーストン流の唐突などんでん返しは私の好みではないが、結末までのストーリーの変転はちと読ませるものがある。

 ところでその三編のうち、「決闘家倶楽部」と「廃屋の一夜」とは、一年ほど前に創土社の『ビーストン傑作集』で読んでいる。今回かっ飛ばしてもいいのだが、せっかく一冊の本を手に取ったのだから、ついでに再読してみる。

「決闘家倶楽部」
 奇妙な決闘が行われた。籤で当たりを引いた者は、失敗するに決まっている無茶な宝石強奪計画を決行して捕らえられ、社会的に死ぬことになる。

「浮沈」
 貧窮のあまり金を盗みに屋敷に入った男が捕らえられたが、屋敷の主人はその男を放免した。主人は警察に逮捕される寸前で、それどころではなかったのだ。三作の中ではこれがベスト。ここまでストーリーを練られると、ほほう、と思う。

「廃屋の一夜」
 ある男が、復讐のために長年働いて資金を貯めた。ところがその相手は、ふとした災難によって記憶喪失になっていた。これでは復讐の意味がない。