累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第四回

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第四回をやる。

◆「一月二百磅」 ビーストン(大正十四年『新青年』)

 エトリッジの屋敷に侵入した泥棒が捕らえられた。そころがその男は、エトリッジをペテン師のアルギーとして知っており、以前獄中で見かけたと暴き立てた。その暴露を受けて、エトリッジは奇妙な告白を始めた。

 彼の主張によれば、確かに投獄されていたことはあったが、それは冤罪である。刑期を終えて出獄した彼のもとに、不思議なことに何者かから毎月二百ポンドが送られてくるようになった。もしかして、彼を無実の罪に陥れた者が送金しているのではないか。その金が、現在の豪勢な生活の原資となっているという。

 ビーストンらしい、全く伏線がないどんでん返しのある作品。そのオチってえのが、しょうも(伏字)。

◆「夏の一夜」 アムブローズ・ビヤース(大正十五年『新青年』)

 早過ぎた埋葬によって、生きながら墓の中に横たわっているヘンリー。二人の医学生が彼の「死体」を盗もうと、墓を暴き始めた。二ページしかないグロテスクなショート・ショート。これは面白かった。

◆「卵と結婚」 フランス漫畫[※著者表記無し](大正十五年『探偵趣味』)

 買ってきた卵を茹でてみると、殻に花婿募集の文字が浮かび上がった。独身生活に飽き飽きしている主人公君、早速結婚を申し込んだが。

 漫畫とあるが実際は文字だけである。ちょっとしたオチのあるユーモア譚。返事を待ちながら、主人公があれこれと想像をたくましくする様が可笑しい。これから嫁を迎える長屋の住人、とイメージするとまるで上方落語の「不動坊」である。