累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第十八回

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十八回をやる。今回は、博文館世界探偵小説全集第六巻『ヒユウム集』に併録の七編のなかから三編を読むことにする。

◆エデイソン・マーシヤル「リンウツド倶樂部事件」
 良い方向に予想を裏切る秀作。内容は、クラブの嫌われ者フランクリン・ブラック殺人事件の顛末である。短いページの中にオーソドックスな材料が揃っている。すなわち、探偵、アリバイ、物証に基づく推理、トリック、意外な犯人。特に、この犯人設定は意欲的。こんなネタにここで出くわすとは思わなかった。

◆メリイ・ロバーツ・ラインハート「眞珠騒動」
 宝石商ブロオメンタアル氏が、大金持ちを装った男に真珠の首飾りを騙し盗られる。ところが…… これはよく分からん。己の読解力の乏しさが悔しいが、どういうことだ?

◆バリイ・ペイン「死體の顔」
 誰からとも知れぬ間違い電話の伝言は、「死体の顔が赤くなった」。雲を掴むような発端から真相にたどり着く過程が読み所。主人公は「物事を狩り出す事に興味を持ってゐる」とのことだが、物語の筆法はいわゆる本格ミステリのそれとはちと違う。謎は魅力的だが、全体は綺譚といった味わい。

 以下、余談その一。本書では、作家名の表記が揺れている。「ヒューム」と「ヒユウム」とが混在しており、なんともおおらかなことである。

 余談その二。残る四編を来月読んで、この本は読了とする。一応のルールとして、本を手に取ったら収録作は初読再読を問わず全て読むことにしているのだが、本書は例外としたい。メインの長編「二輪馬車の秘密」は今年の七月に扶桑社文庫で読んだばかりだから、さすがに今のタイミングで再読する気にはならない。