累風庵閑日録

本と日常の徒然

『光石介太郎探偵小説選』 論創社

●『光石介太郎探偵小説選』 論創社 読了。

 これは面白かった。内容がバラエティに富んでいて、しかもなかなかの佳作が多い。その多様さは驚きで、がちがちの本格ミステリ、街の綺譚、土の匂いがするような田舎綺譚、オーソドックスな怪談、ハードボイルド、戦争秘話、軽快で陽性な艶笑譚、陰湿でねっとりとした変態心理サスペンス、といった作品が並び、読んでいて飽きない。

 以下、いくつかの作品にコメント。「十八号室の殺人」は、味もそっけもないほど整った密室殺人ネタの佳作。結末も良い。意外なところで横溝正史の作品と関連があるのも興味深い。

「霧の夜」は、いきなりの転調がお見事。「空間心中の顛末」は、凄愴な展開をねっとりと綴って凄まじい。ただ悲惨なだけではなくて、捻りがあるのも上々吉。「船とこうのとり」は、婚約者を妊娠させたのは誰なのかがメインの謎で、殺人がついでのように扱われる奇妙なバランスが面白い。