累風庵閑日録

本と日常の徒然

『藤村正太探偵小説選II』 論創社

●『藤村正太探偵小説選II』 論創社 読了。

 月曜火曜と読んでふと気まぐれで中断し、水曜木曜と高木彬光に寄り道してから戻ってきた。

「原爆の歌姫」は、分刻みで関係者の行動表を作るような展開が楽しい。真相は、犯人当て企画だったらまあこうなるだろう、という強引なもの。通常の小説ならなんだこりゃ、と思う所だが、やはり犯人当て企画ということで及第点。

「暁の決闘」は、なかなかの佳作。途中で気付いてしまったので驚きはないが、仕掛けられている意外性の演出がちょっとしたもの。そのネタを支える周辺の小ネタも好ましい。追われる者のサスペンスも十分。だが、第一巻でも見られた作者の持ち味がこの作品にも見られるのはいただけない。こういうのは醒めるのだよ。具体的な事は公開で書けないけれども。

「残雪」は、ネタは意欲的だが上記の好ましくない持ち味がここでも見られるのが残念。

「原子病の妻」と「肌冷たき妻」とは戦前の変格探偵小説のような味で、こういうのも久しぶりに読むと新鮮で悪くない。「蛇崩れ墓地」は、題材は他愛ないけれども料理の仕方がちょいと気が利いている。

 それにしてもこの作家殿、本当に(伏字)ネタと(伏字)ネタが好きであるな。この一冊で何度出くわしたことか。それ以外にも同じネタ同じ題材を、何度も繰り返し用いているのが読んでいてしんどい。個人短編集の悪い部分が出た一冊であった。