●『丘美丈二郎探偵小説選I』 論創社 読了。
ものすごく久しぶりにSFを読んだ。SFというより、古い呼称である空想科学小説の方がしっくりくる。その記述は、化学、数学、天文学、電磁気学、量子論に相対論、原子核物理から果ては生理学に及ぶ。まさに科学小説で、なかなかハードである。理解の程度は覚束ないが、読みながら久しく使っていない頭の領域を使って、娯楽小説を読むのとは違う疲れ方をする。
後半の「評論・随筆篇」を読むと、著者自身は自作の位置付けにかなりこだわりがあるようで。科学を題材にして荒唐無稽な空想をほしいままにした小説ではなく、科学的根拠があって論文になり得る材料を小説に仕立てた、「科学論文小説」だという。
作品の内容は科学ネタ一辺倒ではなく、探偵趣味を色濃く持っている。だからこそ本書は「探偵小説選」なのだ。それどころか怪談噺やモンスター小説まである。しかも、結末の着地点がどうなるのか油断のならない作品が多い。魅力的な謎と奇天烈な真相。跳梁するマッド・サイエンティストと奇怪な発明。普通のミステリがおとなしく思える破天荒さが、この作者の持ち味のようだ。
「翡翠荘奇談」は、収録作の並びからすると異色な怪奇小説だが、エネルギー保存則なんか飛び出してくるのがいかにもこの作者らしい。「ヴァイラス」と「佐門谷」とが収録作中の双璧であった。物語が奇怪で魅力的。結末が(伏字)。