累風庵閑日録

本と日常の徒然

『歴史の話』 網野善彦 鶴見俊輔 朝日文庫

●頭がフィクション疲れを起こしているので、口直しに手に取った『歴史の話』 網野善彦 鶴見俊輔 朝日文庫 を読了。

「日本史を問い直す」という副題が付いた対談集である。読み手に相応の知識があることを前提に語られているので、半分くらいしか理解できなかった。その中で頭に残ったものを抜粋して箇条書きしておく。

・十四世紀、禅宗律宗の僧侶が勧進聖となって寄付金を集め、それを資本として中国と貿易をやって利益を貯める。それをさらに資本として寺院を建立したり橋を掛けたりする。これは一種の起業家と言っていい。

・『延喜式』によれば、鮑、鰹、海藻、塩はどんな神様にも捧げないといけない。日本の神は農産物よりも海産物の方が好き。

・農産物は全国で名前が同じで、これは文字という制度に組み込まれた世界。海産物は各地で名称が違い、制度に組み込まれていない。

・明治期に作られた学術語には意味の重層性が無い。外国から学問を輸入するときに大急ぎで一義的な訳語を作ってしまった。

柳田国男は、資料を選ぶ基準を作って大事な物だけ保存し、それ以外は林檎の包み紙にでもしてしまえと主張した。

豪農だと考えられてきた能登の時国家。その実像は大商人でもあり、北前船を複数持って巨額の取引を行っていた。蔵の中に保存されていた正式な文書ではそれが分からず、襖の下貼りになっていた断片を精査することで初めて判明した。どんな些細な資料でも軽視してはいけない例。